温室効果ガスCO2低減は地球規模の喫緊課題であり、近年CO2を選択的に分離回収する素材が注目されています。アミン含有CO2分離膜では、ハイドロゲル中のアミンが排ガス中のCO2を選択的に分離することが知られています。我々の反応解析によって、アミンが水分子を巧みに利用してCO2捕捉能力を高めていることを突き止めました[1,2](下図)。さらに、分子内の第一級アミン(-NH2)はCO2捕捉に長けており、一方の第二級アミン(-NH-)は水を引き寄せてCO2吸着を促進すると共に、HCO3-イオンとして放出するCO2脱着能力が高く、2種のアミンサイトが協働的にCO2回収に機能している可能性を示しました[2]。
当社では、量子化学パラメータによる「高精度マルチスケール展開」にも取り組んでいます。CO2分離膜設計にはメソ~マクロスケールの相分離制御も不可欠と言われています。当社独自のElongation法によって巨大系量子化学計算を実施し、粗視化の一つである散逸粒子動力学シミュレーションへの高精度パラメータ提供を実現しました。ハイドロゲル/アミン系の相分離シミュレーションによって従来法よりも実験再現性が高いことを確認しました。
プラスチック素材は太陽光に含まれる紫外線によって劣化(変色・強度低下)しますが、そのメカニズムは十分に分かっていません。我々はまずフェニル基を含む代表的なポリカーボネート(CO3を含む高分子)に注目し励起状態解析を実施しました。実験と同様、光励起によってカーボネート部(-O―CO2-)が切断されやすいことが計算からも予測されました。一方、その原因については従来説のCO3内n→π*励起だけでなく、フェニル基をキノイド化させる別のn→π*励起が結合交替を誘起してCO3切断を加速させる新メカニズムを明らかにしました[3](下図)。本機構に基づき、劣化抑制のための分子デザインも行いました[4,5]。また、ポリアミドについても光劣化のメカニズム解明に取り組み、複雑なプロセスを解き明かしつつあります[6]。
当社独自のElongation法の発展形として、周囲の影響を正確に取り込みつつ、注目部位の励起状態解析が可能となるよう開発を行っています[7]。プラスチックの光劣化や色素タンパクなど、一般に光励起は局所で起こります。本手法により、全系の電子状態を正しく考慮しつつ局所の励起状態を効率的に解析できます。
導電性・強磁性・非線形光学特性などの発現メカニズムを電子論的立場から解明・予測することで、新規機能を持つ分子・材料の理論設計を目指しています。
-研究対象の例-